過蓋咬合
(深い噛み合わせ)
過蓋咬合とは
過蓋咬合とは、上の前歯が下の前歯を過度に覆っている状態で、咬み合わせが深すぎる咬合異常です。
「ディープバイト」とも呼ばれ、正常な咬み合わせでは上の前歯が下の前歯を2-3mm覆うのに対し、過蓋咬合では4mm以上覆っている状態を指します。
重度の場合、下の前歯が上の前歯の歯肉に当たることもあり、機能的・審美的な問題を引き起こします。

このような方に向いています
咬み合わせが深すぎる方
下の前歯がほとんど見えない方
下の前歯が上の歯肉に当たる方
顎関節に違和感がある方
歯ぎしりや食いしばりがある方
前歯が摩耗している方

このような方には注意が必要です
重度の歯周病がある方
虫歯治療が完了していない方
定期的な通院が困難な方
金属アレルギーのある方(装置によって)
重度の顎関節症がある方
歯の摩耗が著しく進行している方

治療の特徴
過蓋咬合矯正の特徴は次のとおりです。
顎関節への負担軽減
前歯の摩耗防止
咀嚼機能の改善
審美性の向上
過蓋咬合の分類と原因
01.軽度過蓋咬合
上の前歯が下の前歯を4-6mm覆っている状態です。
機能的な問題は少なく、審美的な改善が主な目的となります。
02.中等度過蓋咬合
上の前歯が下の前歯を6-8mm覆っている状態です。
顎関節への負担や前歯の摩耗が始まることがあります。
03.重度過蓋咬合
上の前歯が下の前歯を8mm以上覆っている状態です。
下の前歯が上の歯肉に当たり、機能的な問題が顕著になります。
04.完全過蓋咬合
下の前歯が全く見えず、上の歯肉に完全に隠れている状態です。
最も重篤な過蓋咬合で、緊急性の高い治療が必要です。
05.原因
・遺伝的要因(骨格的特徴)
・下顎の後退(下顎劣成長)
・上顎前歯の過萌出
・下顎前歯の萌出不足
・臼歯の低位
・咬筋の過活動
・歯ぎしり・食いしばり
治療方法の選択
矯正治療による咬合挙上
過蓋咬合の基本的な治療法です。
- 1
前歯の圧下
-
上の前歯を歯槽骨内に押し込む治療です。
最も確実で安定した治療法とされています。
- 2
臼歯の挺出
-
奥歯を伸ばして咬み合わせの高さを上げる治療です。
前歯の圧下と組み合わせて行うことが多いです。
- 3
マルチブラケット装置
-
最も予知性が高く、確実な治療効果が期待できます。
複雑な歯の移動にも対応可能です。
- 4
リンガルブラケット装置(裏側矯正)
-
歯の裏側に装置を装着する方法で、見た目を気にせず治療を受けられます。
過蓋咬合の治療にも有効です。
- 5
マウスピース型矯正装置
-
軽度から中等度の過蓋咬合に適応があります。
段階的に咬み合わせを改善していきます。
補綴治療との組み合わせ
矯正治療と併用することで、より効果的な治療が可能です。
- 1
咬合挙上
-
奥歯に詰め物やかぶせ物を装着し、咬み合わせの高さを上げます。
短期間での改善が可能です。
- 2
前歯の形態修正
-
摩耗した前歯の形態を回復し、理想的な咬み合わせを作ります。
外科矯正治療
重度の骨格性過蓋咬合に適応されます。
- 1
上顎骨切り術
-
上顎を下方移動させ、咬み合わせの深さを改善します。
- 2
下顎骨切り術
-
下顎を前方移動させ、過蓋咬合を改善します。
- 3
オトガイ形成術
-
下顎先端部の形態を修正し、顔貌のバランスを改善します。
期待できる効果
機能的改善
適切な咬み合わせにより、咀嚼機能が向上します。
顎関節への負担が軽減され、顎関節症の予防・改善につながります。
前歯の保護
過度な咬み込みが改善され、前歯の摩耗を防ぐことができます。
歯の寿命を延ばすことができます。
審美的改善
下の前歯が適切に見えるようになり、自然な笑顔を獲得できます。
口元のバランスが改善されます。
顎関節機能の改善
正常な顎の動きが可能になり、開口時の違和感が解消されます。
歯ぎしりや食いしばりの軽減効果も期待できます。
心理的効果
機能的な問題が解消されることで、食事や会話に自信が持てるようになります。
顎の痛みや違和感からの解放により、快適な日常生活が送れるようになります。
治療の複雑さ
01.技術的難易度
過蓋咬合の治療は矯正治療の中でも特に高度な技術を要します。
前歯の圧下は困難な歯の移動の一つとされています。
02.治療期間
一般的な矯正治療よりも期間が長くなることが多いです。
前歯の圧下には特に時間がかかります。
03.安定性の確保
治療後の安定性を確保するため、長期間の保定が必要です。
適切な保定装置の使用が重要になります。
治療におけるリスク・副作用
※歯を移動させる際、痛みや違和感が数日~1週間程度生じることがあります。
※前歯の圧下は困難な歯の移動で、治療期間が長期になることがあります。
※矯正装置装着により歯磨きが困難になります。
※清掃不良により虫歯や歯周病のリスクが高まります。
※前歯の圧下に伴い歯根吸収が起こるリスクがあります。
※治療中・治療後に顎関節症状が現れることがあります。
※歯肉退縮が起こることがあります。
※過蓋咬合は後戻りしやすい傾向があります。
※咬合挙上により一時的に咬みにくさを感じることがあります。
過蓋咬合矯正の相談事例集
過蓋咬合は必ず治療が必要ですか?
重度の過蓋咬合の場合は、顎関節や歯への悪影響があるため、治療をお勧めします。
過蓋咬合(かがいこうごう)とは、奥歯を噛んだ時に上の前歯が下の前歯を過度に覆い隠している状態です(正常は2~3mm程度)。軽度の過蓋咬合であれば、特に問題がなければ治療の緊急性は低いです。しかし、重度の過蓋咬合では、(1)下の前歯が上顎の歯茎を傷つける、(2)顎関節に過度な負担がかかり顎関節症を引き起こす、(3)歯ぎしりや食いしばりにより歯が摩耗する、(4)前歯に過度な力がかかり歯の寿命が短くなる、などの問題が生じます。
特に、下の前歯が上顎の歯茎に当たって傷ができている場合や、顎関節に痛みや違和感がある場合は、早めの治療が必要です。また、前歯の摩耗が進んでいる場合も、これ以上の摩耗を防ぐために治療が推奨されます。
過蓋咬合かどうか、治療が必要かどうかは、精密検査で判断します。まずは矯正専門医に相談し、ご自身の症状の程度と治療の必要性について確認することをおすすめします。早期に治療することで、将来的な問題を予防できます。
過蓋咬合の治療期間はどのくらいかかりますか?
症例により異なりますが、動的治療期間は2年半~4年程度です。前歯の圧下(押し下げ)には時間がかかります。
過蓋咬合の治療では、上の前歯を圧下(垂直方向に押し下げる)したり、下の前歯を挺出(引き上げる)したりする必要があります。垂直方向の歯の移動は、水平方向の移動に比べて時間がかかるため、過蓋咬合の治療期間は他の不正咬合より長くなる傾向があります。
軽度から中等度の過蓋咬合であれば、2年半~3年程度で治療が完了することが多いです。重度の過蓋咬合や、全体的な歯並びにも問題がある場合は、3~4年程度かかることがあります。また、アンカースクリュー(矯正用インプラント)を使用することで、治療期間を短縮できる場合もあります。
治療期間は、過蓋咬合の程度、年齢、歯の移動に対する反応、使用する装置の種類などによって個人差があります。また、保定期間(後戻りを防ぐ期間)も2年以上必要になります。具体的な治療期間については、精密検査を行った後に詳しくご説明します。長期間の治療になりますが、根気よく続けることで、健康な噛み合わせを獲得できます。
過蓋咬合の矯正治療で痛みはありますか?
前歯の圧下(押し下げ)時に違和感を感じることがありますが、強い痛みは少ないです。
矯正治療では、歯に力をかけて移動させるため、装置装着直後や調整後に痛みや違和感を感じることがあります。過蓋咬合の治療では、前歯を垂直方向に圧下する力をかけますが、この際の痛みは比較的軽微です。違和感や鈍い痛みを感じることはありますが、抜歯スペースに歯を移動させる治療に比べて、痛みは少ない傾向があります。
痛みの感じ方には個人差がありますが、一般的には装置装着後2~3日程度で軽減していきます。この期間は、柔らかい食事を選ぶことをおすすめします。市販の鎮痛剤を使用することもできますが、多くの方は鎮痛剤なしでも耐えられる程度の痛みです。
また、過蓋咬合の治療では、奥歯に咬合挙上装置(奥歯の噛み合わせを高くする装置)を使用することがあります。この装置に慣れるまでは違和感がありますが、1~2週間で慣れてきます。痛みが強い場合や長期間続く場合は、装置の調整が必要な可能性がありますので、担当医に相談してください。
過蓋咬合の治療で顎関節症は改善されますか?
適切な噛み合わせにすることで、顎関節への負担が軽減され、顎関節症の改善が期待できます。
過蓋咬合では、噛み合わせが深いため、顎関節に過度な負担がかかります。特に、奥歯を噛んだ時に下顎が後方に押し込まれるような状態になると、顎関節や周囲の筋肉に負担がかかり、顎関節症(顎の痛み、口が開けにくい、音がするなど)を引き起こすことがあります。
矯正治療により過蓋咬合を改善し、適切な噛み合わせにすることで、顎関節への負担が軽減されます。その結果、顎関節症の症状が改善されることが期待できます。前歯の垂直的な位置が改善されると、下顎の位置も正常になり、顎関節や筋肉への負担が減ります。
ただし、顎関節症の原因は複雑で、噛み合わせだけが原因ではない場合もあります。ストレス、歯ぎしり、食いしばり、悪い姿勢なども関与していることがあります。顎関節症の症状がある場合は、矯正治療と並行して、理学療法やスプリント療法(マウスピースを使った治療)などを行うこともあります。まずは診察を受けて、顎関節症の原因と最適な治療法について相談することをおすすめします。
大人になってから過蓋咬合の治療はできますか?
年齢に関係なく治療可能です。むしろ成人期の治療の方が、骨の成長がないため安定性に優れています。
矯正治療は、歯と歯茎が健康であれば何歳からでも可能です。成人の方でも、過蓋咬合を改善して健康な噛み合わせを獲得できます。過蓋咬合により、顎関節症や歯の摩耗などの問題がある場合、治療によりこれらの問題を改善し、歯の寿命を延ばすことができます。
成人の場合、骨の成長が完了しているため、治療計画が立てやすく、治療結果も安定しやすいというメリットがあります。子供の場合は成長により予測が難しい面がありますが、成人ではその心配がありません。また、成人は治療への協力が得られやすく、装置の管理もしっかりできるため、計画通りに治療が進むことが多いです。
ただし、成人の場合、子供に比べて骨の代謝が緩やかなため、歯の移動に時間がかかることがあります。また、すでに顎関節症や歯の摩耗がある場合は、それらの治療も並行して行う必要があります。何歳からでも、健康な噛み合わせを手に入れることは可能ですので、諦めずにご相談ください。まずは精密検査を受けて、最適な治療計画を立てましょう。
過蓋咬合の治療で歯ぎしりは改善されますか?
噛み合わせの改善により、歯ぎしりの軽減効果が期待できます。ただし、完全になくなるとは限りません。
過蓋咬合では、噛み合わせが深く、前歯に過度な力がかかるため、歯ぎしりや食いしばりが起こりやすくなります。また、顎関節に負担がかかることで、無意識のうちに顎の位置を調整しようとして歯ぎしりをすることもあります。
矯正治療により過蓋咬合を改善し、適切な噛み合わせにすることで、顎関節や歯への負担が軽減されます。その結果、歯ぎしりが軽減される効果が期待できます。前歯と奥歯のバランスが良くなることで、歯ぎしりの頻度や強さが減ることが多いです。
ただし、歯ぎしりの原因は噛み合わせだけではなく、ストレス、睡眠障害、飲酒、喫煙なども関与しています。そのため、矯正治療だけで歯ぎしりが完全になくなるとは限りません。歯ぎしりが続く場合は、ナイトガード(夜間用のマウスピース)を使用して、歯を保護することが重要です。
矯正治療により噛み合わせを改善することは、歯ぎしりの軽減に有効ですが、生活習慣の改善やストレス管理なども併せて行うことが大切です。
見えない矯正で過蓋咬合は治療できますか?
軽度から中等度の過蓋咬合であれば、裏側矯正やマウスピース型矯正が可能です。重度の場合は通常の表側装置が適しています。
軽度から中等度の過蓋咬合で、全体的な歯並びにも大きな問題がない場合は、裏側矯正やマウスピース型矯正での治療が可能な場合があります。特に、マウスピース型矯正は、装置自体が奥歯を噛んだ時に前歯が噛み合わないようにする効果(咬合挙上効果)があるため、過蓋咬合の治療に適していることがあります。
裏側矯正は、表側矯正と同等の治療効果が得られるため、見た目を気にされる方におすすめです。装置が歯の裏側にあるため、正面から見ても全く見えません。過蓋咬合の治療でも、前歯の精密な圧下(押し下げ)が可能です。
ただし、重度の過蓋咬合の場合は、通常の表側装置を使用することが多いです。過蓋咬合の治療では、前歯を垂直方向に精密に動かす必要があり、複雑な歯のコントロールが求められるためです。また、アンカースクリュー(矯正用インプラント)を併用することもあります。
見えない矯正が可能かどうかは、過蓋咬合の程度、全体的な歯並びの状態などによって異なります。精密検査を行って、最適な治療法をご提案します。
過蓋咬合の治療後に後戻りしやすいと聞きましたが本当ですか?
過蓋咬合は確かに後戻りしやすい不正咬合です。ただし、適切な保定装置の使用により後戻りを防ぐことができます。
過蓋咬合の治療では、前歯を垂直方向に圧下(押し下げ)しますが、圧下した歯は元の位置に戻ろうとする性質があります。特に、前歯の垂直的な位置は後戻りしやすく、保定を怠ると再び過蓋咬合になってしまう可能性があります。
後戻りを防ぐためには、保定装置(リテーナー)の適切な使用が非常に重要です。保定装置には、(1)取り外し式のマウスピースタイプ、(2)歯の裏側に固定するワイヤータイプ、などがあります。治療終了後、最初の1~2年は1日中(食事と歯磨き以外)装着し、その後は夜間のみの装着に移行するのが一般的です。過蓋咬合の場合、保定期間は他の不正咬合より長くなることがあります。
また、歯ぎしりや食いしばりの癖がある場合は、ナイトガード(夜間用のマウスピース)を使用して、歯を保護することも重要です。保定装置を指示通りに使用し、定期的なチェックを受けることで、治療結果を長期的に維持することができます。保定は矯正治療の一部ですので、しっかり継続しましょう。
過蓋咬合で摩耗した歯は元に戻りますか?
矯正治療では歯の形は戻りませんが、補綴治療(被せ物や詰め物)により形態を回復できます。
過蓋咬合により、長年にわたって前歯に過度な力がかかると、歯が摩耗(すり減る)してしまうことがあります。特に、下の前歯が上顎の歯茎や上の前歯の裏側に当たり続けることで、歯の先端がすり減ってしまいます。矯正治療は歯の位置を動かす治療ですので、すり減った歯の形を元に戻すことはできません。
ただし、矯正治療により適切な噛み合わせにした後、補綴治療(被せ物や詰め物で歯の形を回復する治療)を行うことで、歯の形態を回復できます。コンポジットレジン(歯科用プラスチック)による詰め物や、セラミックの被せ物などを使用して、すり減った部分を補います。
矯正治療を先に行うことで、適切な噛み合わせが獲得され、補綴治療後の歯が再び摩耗するのを防ぐことができます。逆に、補綴治療を先に行ってしまうと、噛み合わせが改善されていないため、再び摩耗してしまう可能性があります。
摩耗が進んでいる場合は、まず矯正治療で噛み合わせを改善し、その後に補綴治療で歯の形を回復するという順序で治療を進めることをおすすめします。
過蓋咬合は遺伝しますか?
過蓋咬合には遺伝的要因が関与することがありますが、後天的な要因も大きく影響します。
過蓋咬合の原因として、遺伝的要因があります。顎の骨格の大きさや形、歯の大きさなどは遺伝的に決まる部分が大きく、ご両親やご家族に過蓋咬合の方がいると、お子さんも過蓋咬合になる可能性が高くなります。特に、上顎が大きい、下顎が小さい、前歯が長いなどの特徴は遺伝しやすいです。
一方、後天的な要因も過蓋咬合の原因になります。例えば、(1)奥歯の早期喪失(虫歯などで奥歯を失うと、前歯に過度な力がかかる)、(2)悪習癖(舌で前歯を押す、指しゃぶりなど)、(3)歯ぎしりや食いしばり、(4)軟食中心の食生活(顎が十分に発達しない)、などがあります。
ご家族に過蓋咬合の方がいる場合でも、後天的な要因に注意することで、過蓋咬合を予防したり、軽度に抑えたりすることができます。硬いものをしっかり噛む、悪習癖を改善する、虫歯を予防して歯を失わないようにする、などが重要です。お子さんの噛み合わせが気になる場合は、早めに矯正専門医に相談し、定期的なチェックを受けることをおすすめします。
子供の過蓋咬合はいつ治療すべきですか?
永久歯が生え揃ってからの治療が一般的ですが、重度の場合や問題がある場合は早期治療を検討します。
過蓋咬合の治療は、永久歯が生え揃う12~14歳頃から開始するのが一般的です。この時期は、顎の成長がほぼ完了しており、すべての永久歯が揃っているため、治療計画が立てやすく、治療結果も安定しやすいからです。
ただし、重度の過蓋咬合で、下の前歯が上顎の歯茎を傷つけている場合や、顎関節に問題がある場合は、早期治療を検討します。また、奥歯の早期喪失により過蓋咬合が進行している場合も、早めの介入が必要です。早期治療では、咬合挙上装置(奥歯の噛み合わせを高くする装置)や、取り外し式の装置を使用して、過蓋咬合の進行を防ぎます。
乳歯列期や混合歯列期(6~12歳頃)の過蓋咬合は、永久歯への生え変わりとともに改善することもありますが、改善しないことも多いです。お子さんの過蓋咬合が気になる場合は、早めに矯正専門医に相談し、定期的なチェックを受けることをおすすめします。適切な時期に治療を開始することで、効果的に改善できます。
過蓋咬合の治療中に噛みにくくなりますか?
治療中、一時的に噛みにくさを感じることがありますが、徐々に慣れていきます。
過蓋咬合の治療では、前歯を圧下(押し下げ)したり、奥歯を挺出(引き上げ)したりするため、治療途中で噛み合わせが変化します。特に、咬合挙上装置(奥歯の噛み合わせを高くする装置)を使用する場合、装置をつけた直後は奥歯でしか噛めず、前歯が浮いた状態になります。この時期は、食べ物を噛み切りにくい、話しにくいなどの違和感があります。
しかし、多くの方は1~2週間で装置に慣れ、普通に食事ができるようになります。最初は柔らかい食事を選び、徐々に普通の食事に戻していくことをおすすめします。前歯で噛み切る必要がある食べ物(りんご、とうもろこしなど)は、小さく切ってから食べるなどの工夫が必要です。
治療が進むにつれて、前歯と奥歯のバランスが改善され、噛みやすくなっていきます。治療終了時には、適切な噛み合わせが獲得され、治療前よりも快適に食事ができるようになります。一時的な不便はありますが、治療のゴールを目指して頑張りましょう。噛みにくさが続く場合は、担当医に相談してください。
過蓋咬合の治療に顎関節症の予防効果はありますか?
適切な噛み合わせにすることで、顎関節への負担が軽減され、顎関節症の予防効果が期待できます。
過蓋咬合では、噛み合わせが深いため、顎関節に過度な負担がかかりやすい状態です。長年にわたって負担がかかり続けると、将来的に顎関節症(顎の痛み、口が開けにくい、音がするなど)を発症するリスクが高まります。また、顎関節への負担により、頭痛や肩こりなどの症状が出ることもあります。
矯正治療により過蓋咬合を改善し、適切な噛み合わせにすることで、顎関節への負担が軽減されます。前歯と奥歯のバランスが良くなり、下顎の位置も正常になるため、顎関節や周囲の筋肉にかかる負担が減ります。その結果、将来的な顎関節症の予防効果が期待できます。
特に、若いうちに過蓋咬合を治療することで、長期的に健康な顎関節を維持できる可能性が高まります。すでに顎関節に違和感や痛みがある場合は、早めに治療を開始することをおすすめします。過蓋咬合の治療は、歯並びを美しくするだけでなく、顎関節の健康を守るためにも重要です。
過蓋咬合の治療で歯の寿命は延びますか?
過度な力から歯を守ることで、歯の寿命を延ばすことができます。
過蓋咬合では、前歯に過度な力がかかるため、歯に様々な問題が生じます。(1)歯の摩耗(すり減る)、(2)歯根の吸収(歯の根が溶ける)、(3)歯周病の進行、(4)歯の破折(割れる)、などのリスクが高まります。これらの問題により、歯の寿命が短くなってしまう可能性があります。
矯正治療により過蓋咬合を改善し、適切な噛み合わせにすることで、前歯にかかる過度な力を分散させることができます。前歯と奥歯のバランスが良くなり、すべての歯に均等に力がかかるようになるため、特定の歯だけに負担がかかることを防げます。その結果、歯の摩耗や破折のリスクが減り、歯の寿命を延ばすことができます。
また、適切な噛み合わせにより、歯周組織(歯を支える骨や歯茎)への負担も軽減されます。歯周病の進行を抑制し、歯を長期的に健康に保つことができます。過蓋咬合の治療は、将来の歯の健康を守るための重要な投資と言えます。早めに治療することで、より長く自分の歯を使い続けることができます。
医師からのコメント
開咬は咬合異常の中でも特に治療が困難とされていますが、近年の治療技術の向上により確実な改善が可能になっています。
最も重要なのは、原因となる習癖の除去です。舌癖や口呼吸などの改善なしには、矯正治療だけでは根本的な解決に至りません。
当院では言語聴覚士と連携し、筋機能療法にも力を入れています。
開咬は後戻りしやすい特徴がありますが、原因の除去と適切な治療により、機能的で美しい咬み合わせを獲得できます。
前歯で物が咬めない、発音に問題があるなどでお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。
お子さまの指しゃぶりや舌癖が気になる保護者の方も、お気軽にご相談いただければと思います。
