空隙歯列
(すきっ歯・正中離開)
空隙歯列とは
空隙歯列とは、歯と歯の間に隙間がある歯並びのことです。「すきっ歯」とも呼ばれ、前歯の真ん中の隙間(正中離開)が最も目立ちますが、歯列全体に隙間が散在している場合もあります。 顎の大きさに対して歯のサイズが小さい、歯の本数が不足している、または歯周病による歯の移動などが原因となります。

このような方に向いています
前歯の真ん中に隙間がある方
歯列全体に隙間が多い方
食べ物が歯の間に挟まりやすい方
発音に問題がある方
口元の見た目を改善したい方
歯の隙間から息が漏れる方

このような方には注意が必要です
重度の歯周病がある方
虫歯治療が完了していない方
定期的な通院が困難な方
金属アレルギーのある方(装置によって)
舌の悪習癖が強い方
先天的な歯の欠如が多数ある方

治療の特徴
空隙歯列矯正の特徴は次のとおりです。
審美性の大幅な改善
発音機能の向上
食片圧入の防止
心理的コンプレックスの解消
空隙歯列の種類と原因
01.正中離開
上顎前歯の真ん中にある隙間で、最も目立つタイプです。
上唇小帯の異常付着や、側切歯の先天欠如が原因となることが多いです。
02.散在性空隙
歯列全体に複数の隙間が存在する状態です。
顎に対して歯が小さい、または歯の本数が不足していることが原因です。
03.限局性空隙
特定の部位にのみ隙間が存在する状態です。
歯の先天欠如や形態異常が原因となることが多いです。
04.原因
・先天的な歯の欠如(側切歯、小臼歯など)
・矮小歯(歯のサイズが小さい)
・上唇小帯の異常付着
・舌突出癖などの悪習癖
・歯周病による歯の移動
・過剰歯の影響
・顎の大きさと歯のサイズの不調和
治療方法の選択
矯正治療による空隙閉鎖
最も根本的な治療法で、歯の移動により隙間を閉鎖します。
- 1
マルチブラケット装置
-
確実で予知性の高い治療が可能です。全ての隙間を同時に閉鎖でき、咬合も同時に改善できます。
- 2
リンガルブラケット装置(裏側矯正)
-
歯の裏側に装置を装着する方法で、見た目を気にせず治療を受けられます。 空隙歯列の治療にも有効で、審美性を重視する方に適しています。
- 3
マウスピース型矯正装置
-
軽度から中等度の空隙歯列に適応があります。 段階的に隙間を閉鎖していき、快適に治療を進められます。
補綴治療との組み合わせ
矯正治療で大きな隙間を縮小し、残った小さな隙間を補綴治療で閉鎖する方法です。
- 1
ダイレクトボンディング
-
レジンを用いて歯の形態を修正し、隙間を閉鎖します。 治療期間が短く、可逆性があるのが特徴です。
- 2
ラミネートベニア
-
薄いセラミックを歯の表面に貼り付けて隙間を閉鎖します。 審美性に優れ、耐久性も高い治療法です。
- 3
セラミッククラウン
-
歯全体を覆うセラミックにより隙間を閉鎖します。 大きな隙間や形態異常にも対応可能です。
期待できる効果
審美的改善
隙間が閉鎖されることで、美しい歯並びを獲得できます。
特に前歯の隙間は口元の印象を大きく変えます。
機能的改善
正常な発音が可能になります。
サ行やタ行の発音が明瞭になり、息漏れが改善されます。
食事の快適性向上
食べ物が歯の間に挟まりにくくなります。
食事を快適に楽しめるようになります。
清掃性の改善
適切な隙間に調整されることで、清掃しやすくなります。
虫歯や歯周病のリスクが軽減されます。
心理的効果
コンプレックスが解消され、自信を持って笑えるようになります。
人前で話すことへの抵抗がなくなります。
治療計画の立案
01.隙間の総量測定
全ての隙間の合計を測定し、治療方針を決定します。 隙間の総量により治療法が変わります。
02.歯の大きさの評価
Bolton分析により、上下の歯の大きさのバランスを評価します。 必要に応じて歯の形態修正を計画します。
03.咬合の評価
隙間閉鎖後の咬合状態を予測し、機能的な問題がないか確認します。
04.審美的評価
歯の形態や色調を評価し、最終的な審美性を検討します。
治療におけるリスク・副作用
※歯を移動させる際、痛みや違和感が数日~1週間程度生じることがあります。
※隙間閉鎖の速度には個人差があります。
※矯正装置装着により歯磨きが困難になります。
※清掃不良により虫歯や歯周病のリスクが高まります。
※歯の移動に伴い歯根吸収が起こることがあります。
※治療中・治療後に顎関節症状が現れることがあります。
※歯肉退縮が起こることがあります。
※空隙歯列は後戻りしやすいため、保定装置の使用が重要です。
※舌癖が改善されない場合、再発のリスクがあります。
ご相談事例
前歯の隙間は矯正で必ず治りますか?
ほとんどの場合、矯正治療により前歯の隙間は改善可能です。ただし、隙間の原因によって治療法が異なります。
前歯の隙間(正中離開)の原因としては、(1)上唇小帯(上唇と歯茎をつなぐヒダ)の異常、(2)歯のサイズが小さい、(3)顎のサイズが大きい、(4)舌で前歯を押す癖(舌癖)、(5)歯の本数が足りない(先天性欠如)、などが考えられます。原因によって最適な治療方法が異なります。
例えば、上唇小帯が原因の場合は、小帯切除術を行ってから矯正治療をすることで、効果的に隙間を閉じることができます。舌癖が原因の場合は、MFT(口腔筋機能療法)という舌のトレーニングを併用して治療します。
具体的な原因を特定するには、精密検査が必要です。レントゲンや歯型などの資料をもとに診断し、最適な治療計画を立てます。原因に合った治療を行うことで、確実に隙間を閉じることができます。まずは診察を受けて、隙間の原因を特定することをおすすめします。
前歯の隙間を治すのにどのくらいの期間がかかりますか?
隙間の大きさや治療範囲により異なりますが、部分矯正で6ヶ月~1年、全顎矯正で1年~2年程度です。
前歯の隙間だけが気になり、他の歯並びに問題がない場合は、部分矯正で対応できることがあります。部分矯正は前歯部に限定した治療で、治療期間は6ヶ月~1年程度と短く済みます。隙間が1~2mm程度の軽度な正中離開であれば、数ヶ月で改善することもあります。
一方、隙間が大きい場合や、全体的な歯並びにも問題がある場合は、全顎矯正が必要です。全顎矯正では、すべての歯を対象として噛み合わせ全体を改善するため、治療期間は1年~2年程度になります。ただし、全体的に治療することで、より安定した結果が得られます。
治療期間は、隙間の大きさ、原因、治療方法、装置の種類などによって変わります。また、舌癖がある場合は、癖の改善に時間がかかることもあります。具体的な治療期間については、精密検査を行った後に詳しくご説明します。
舌癖があっても空隙歯列の治療はできますか?
舌癖がある場合でも治療は可能です。ただし、舌癖の改善指導と併せて治療を行う必要があります。癖が改善されないと後戻りのリスクが高くなります。
舌癖とは、飲み込む時や安静時に舌で前歯を押す癖のことです。この癖があると、常に前歯に前方への力がかかるため、前歯の隙間が開いてしまいます。矯正治療で隙間を閉じても、舌癖が残っていると、治療後に再び隙間が開いてしまう(後戻り)可能性が高くなります。
そのため、舌癖がある方には、矯正治療と並行してMFT(口腔筋機能療法)という舌のトレーニングを行います。MFTでは、正しい舌の位置や飲み込み方を練習します。毎日の練習が必要ですが、癖を改善することで、治療後の安定性が大幅に向上します。
舌癖の改善には数ヶ月~1年程度かかることがありますが、根気よく続けることが重要です。治療中から舌癖の改善に取り組むことで、治療後に美しい歯並びを長期間維持することができます。担当医の指示に従って、しっかりトレーニングを行いましょう。
空隙歯列の矯正治療で痛みはありますか?
装置装着時や調整後に軽度の痛みがありますが、隙間を閉じる際の痛みは比較的軽微です。
矯正治療では、歯に力をかけて移動させるため、装置装着直後や調整後に痛みや違和感を感じることがあります。ただし、空隙歯列(すきっ歯)の治療では、歯を移動させるスペースがすでにあるため、歯を抜いたスペースに歯を移動させる治療や、重なった歯を並べる治療に比べて、痛みは比較的軽微です。
痛みの感じ方には個人差がありますが、一般的には装置装着後2~3日程度で軽減していきます。この期間は、柔らかい食事を選ぶことをおすすめします。市販の鎮痛剤を使用することもできますが、多くの方は鎮痛剤なしでも耐えられる程度の痛みです。
また、装置が頬や唇に当たって口内炎ができることがありますが、ワックスを使用することで緩和できます。痛みが強い場合や長期間続く場合は、装置の調整が必要な可能性がありますので、担当医に相談してください。空隙歯列の治療は、比較的痛みが少なく、身体的な負担も少ない治療です。
大人になってからでも空隙歯列は治りますか?
年齢に関係なく治療可能です。大人の方でも、矯正治療により美しい歯並びを獲得できます。
矯正治療は、歯と歯茎が健康であれば何歳からでも可能です。成人の方でも、空隙歯列を改善して美しい笑顔を手に入れることができます。「矯正治療は子供の時にしかできない」というのは誤解です。実際、最近では成人の矯正治療を受ける方が増えています。
ただし、成人の場合は子供に比べて骨の代謝が緩やかなため、歯の移動に時間がかかることがあります。また、歯周病がある場合は、先にその治療が必要になります。歯周病をしっかり治療してから矯正治療を開始すれば、問題なく治療できます。
成人の矯正治療では、見た目を気にされる方が多いため、裏側矯正やマウスピース型矯正、白いセラミック製の装置など、目立ちにくい治療法が人気です。仕事や日常生活への影響を最小限に抑えながら治療できます。何歳からでも、きれいな歯並びを手に入れることは可能ですので、諦めずにご相談ください。
前歯だけの部分矯正で空隙歯列は治せますか?
軽度の正中離開(前歯の隙間)であれば、部分矯正で対応可能です。全体のバランスを考慮して判断します。
前歯の隙間だけが気になり、他の歯並びや噛み合わせに問題がない場合は、部分矯正で治療できる可能性があります。部分矯正は前歯部(通常は犬歯から犬歯まで)に限定した治療で、治療期間が短く(6ヶ月~1年程度)、負担も少ないというメリットがあります。
ただし、奥歯の噛み合わせに問題がある場合や、全体的な歯並びの調整が必要な場合は、部分矯正では対応できません。その場合は、全顎矯正をおすすめします。部分矯正が適しているかどうかは、レントゲンや歯型などの資料をもとに診断します。
部分矯正で隙間を閉じる場合、装置は裏側矯正、マウスピース型矯正、表側の目立たない装置など、様々な選択肢があります。見た目を気にされる方には、裏側矯正やマウスピース型矯正がおすすめです。まずは診察を受けて、部分矯正で対応できるか、それとも全体的な治療が必要かを確認することをおすすめします。
見えない矯正で空隙歯列は治せますか?
裏側矯正やマウスピース型矯正でも空隙歯列の治療は可能です。症例により適応を判断します。
空隙歯列は、見えない矯正治療の良い適応症です。裏側矯正は、装置が歯の裏側にあるため、正面から見ても全く見えません。接客業や人前に出る機会が多い方に最適です。隙間を閉じる治療は、裏側矯正でも効果的に行えます。
マウスピース型矯正(インビザラインなど)も、空隙歯列の治療に適しています。透明なマウスピースを使用するため、装着していても目立ちません。取り外しができるため、食事や歯磨きが快適です。ただし、1日20~22時間以上の装着が必要で、装着時間を守らないと治療効果が得られません。
どちらの方法が適しているかは、隙間の大きさ、原因、全体的な歯並びの状態などによって異なります。軽度な隙間であればマウスピース型矯正、より精密な歯の移動が必要な場合は裏側矯正が適していることが多いです。精密検査を行って、最適な治療法をご提案します。見た目を気にせず治療できますので、安心してご相談ください。
空隙歯列の治療後、隙間が戻ることはありますか?
空隙歯列は後戻りしやすい症例です。保定装置の適切な使用と舌癖の改善が重要です。
矯正治療で隙間を閉じても、歯は元の位置に戻ろうとする性質があります。これを「後戻り」と呼びます。特に空隙歯列は、舌癖や上唇小帯の問題など、隙間ができた原因が残っていると後戻りしやすい傾向があります。
後戻りを防ぐためには、(1)保定装置(リテーナー)の適切な使用、(2)舌癖の改善、(3)上唇小帯の処置(必要な場合)、が重要です。保定装置は、治療終了後、最初の1~2年は1日中(食事と歯磨き以外)装着し、その後は夜間のみの装着に移行するのが一般的です。
舌癖がある方は、MFT(口腔筋機能療法)で正しい舌の位置や飲み込み方を身につけることが必須です。癖が改善されないと、いくら保定装置を使用しても後戻りしてしまう可能性があります。治療中から舌癖の改善に取り組み、治療後も継続することが大切です。保定期間中も定期的なチェックを受け、指示に従って保定装置を使用しましょう。
空隙歯列は遺伝しますか?
空隙歯列には遺伝的要因が関与することがありますが、環境的要因も大きく影響します。
顎の大きさや歯の大きさは遺伝的に決まる部分が大きいです。ご両親が顎が大きく歯が小さい場合、お子さんも同様の傾向になり、空隙歯列になる可能性があります。また、先天性欠如(生まれつき歯の本数が少ない)も遺伝的要因が関係していることがあります。
一方、環境的要因も空隙歯列の原因となります。例えば、(1)舌癖(舌で前歯を押す癖)、(2)指しゃぶり、(3)口呼吸、(4)上唇小帯の異常、などは後天的な要因です。特に舌癖は、幼少期の習慣や飲み込み方の問題から生じることが多く、遺伝とは関係ありません。
ご両親やご兄弟に空隙歯列の方がいる場合、お子さんも空隙歯列になる可能性はありますが、必ずしも遺伝するわけではありません。逆に、ご家族に空隙歯列の方がいなくても、環境的要因により空隙歯列になることもあります。原因が何であれ、矯正治療により改善できますので、気になる場合は早めに矯正専門医に相談することをおすすめします。
子供の前歯に隙間があります。いつ治療すべきですか?
永久歯が生え揃ってから治療するのが一般的ですが、上唇小帯の問題がある場合は早期治療が有効です。
乳歯列期(3~6歳頃)や混合歯列期(6~12歳頃)の前歯の隙間は、永久歯への生え変わりとともに自然に閉じることがあります。特に、乳歯の前歯の間に隙間があるのは正常なことで、「発育空隙」と呼ばれます。永久歯は乳歯より大きいため、このスペースが必要なのです。
ただし、上唇小帯(上唇と歯茎をつなぐヒダ)が太く、前歯の間まで入り込んでいる場合は、永久歯になっても隙間が閉じないことがあります。このような場合は、永久歯の前歯が生え揃った7~8歳頃に、小帯切除術を行うことが効果的です。小帯を切除することで、自然に隙間が閉じることもあります。
舌癖が原因で隙間がある場合も、早期に癖の改善を始めることが重要です。永久歯が生え揃う12~14歳頃まで隙間が残っている場合は、矯正治療を開始します。お子さんの前歯の隙間が気になる場合は、まず矯正専門医に相談し、治療の必要性と適切な開始時期を判断してもらうことをおすすめします。
前歯に隙間があると虫歯になりやすいですか?
適度な隙間は歯ブラシが届きやすく清掃しやすいですが、大きな隙間は食片圧入(食べ物が詰まること)により問題を起こすことがあります。
前歯に小さな隙間がある場合、歯ブラシやデンタルフロスが通りやすく、清掃性は良好です。そのため、虫歯のリスクは低いと言えます。むしろ、歯が重なっている部分の方が清掃しにくく、虫歯になりやすい傾向があります。
ただし、大きな隙間がある場合は、食事のたびに食べ物が詰まりやすくなります。食片圧入が繰り返されると、歯茎に炎症が起きたり、虫歯のリスクが高まったりすることがあります。また、前歯の隙間から空気が漏れて発音がしにくくなる、見た目が気になるなどの問題もあります。
空隙歯列では虫歯のリスクよりも、審美的な問題や発音の問題、食片圧入による歯茎の問題の方が大きいと言えます。隙間があること自体が直接虫歯を引き起こすわけではありませんが、食べ物が詰まりやすい場合は、食後の歯磨きやうがいをしっかり行うことが重要です。隙間が気になる場合は、矯正治療で改善することをおすすめします。
矯正治療中に発音は改善されますか?
治療経過とともに徐々に発音は改善されます。ただし、装置に慣れるまでは一時的に話しにくいことがあります。
前歯に隙間があると、特にサ行の発音がしにくくなることがあります。これは、隙間から空気が漏れてしまうためです。矯正治療で隙間を閉じることで、このような発音の問題は改善されます。
ただし、矯正装置を装着した直後は、装置に舌や唇が当たるため、一時的に発音しにくくなることがあります。特に裏側矯正の場合は、舌が装置に触れるため、サ行、タ行、ラ行などの発音がしにくくなることがあります。しかし、多くの方は1~2週間程度で装置に慣れ、通常通り話せるようになります。
マウスピース型矯正の場合も、装着直後は違和感がありますが、数日で慣れてきます。治療が進んで隙間が閉じてくると、発音もより明瞭になります。発音の問題が気になる場合は、大事な会議やプレゼンテーションの直前を避けて装置を装着するなどの工夫も可能です。担当医に相談してください。
医師からのコメント
空隙歯列は見た目の問題だけでなく、発音や食事にも影響を与える歯並びの問題です。
特に前歯の隙間は第一印象に大きく影響するため、多くの患者さまがコンプレックスを感じていらっしゃいます。
現在では矯正治療の技術向上により、確実で美しい隙間閉鎖が可能になっています。
ただし、空隙歯列は後戻りしやすい特徴があるため、原因の除去と適切な保定が重要です。
軽度の隙間であれば短期間での改善も可能ですので、お悩みの方はぜひ一度ご相談ください。
患者さまのご希望に応じた最適な治療法をご提案いたします。
