今回は、「上下の前歯の凸凹と出っ歯が気になる」というお悩みで来院された21歳男性の裏側矯正症例をご紹介します。症例記録では、叢生、上下顎前突、下顎骨の骨格的な左側偏位、上顎歯列の狭窄が認められていました。
本症例では上下顎ともにリンガルアプライアンス(舌側矯正・裏側矯正)を使用し、TAD(歯科矯正用アンカースクリュー)2本、QH(クォードヘリックス)を併用しています。また、上顎左右の第一小臼歯と下顎左右の第二小臼歯、合計4本を抜歯して治療を行いました。
動的治療期間は2年、治療回数は24回、治療費は154万円(税込)です。上下とも装置を裏側に設置するフルリンガル矯正で、強い叢生や上下顎前突など複数の問題に対応した症例として、治療前後の変化や治療のポイントを詳しく解説します。
この症例の概要
患者さまは21歳男性で、主訴は上下の前歯の凸凹と出っ歯でした。症例記録では、叢生、上下顎前突、下顎骨の骨格的な左側偏位、上顎歯列の狭窄が確認されています。治療には上下のリンガルアプライアンスを使用し、固定源としてTADを2本、補助装置としてQHを併用しました。
抜歯部位は上顎左右第一小臼歯と下顎左右第二小臼歯の計4本です。動的治療期間は2年、治療回数は24回でした。上下の前歯の凸凹だけでなく、前歯の前方への突出や顎・歯列の左右差、歯列の狭窄も含めて治療を行った症例です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 年齢・性別 | 21歳・男性 |
| 主訴 | 上下の前歯の凸凹と出っ歯が気になる |
| 症状 | 叢生/上下顎前突/下顎骨の骨格的な左側偏位/上顎歯列の狭窄 |
| 主な治療 | 上下リンガルアプライアンス(フルリンガル矯正) |
| 併用装置 | TAD 2本/QH |
| 抜歯 | 上顎左右第一小臼歯・下顎左右第二小臼歯 計4本 |
| 動的治療期間 | 2年0か月 |
| 治療回数 | 24回 |
| 治療費 | 154万円(税込・当該症例治療時) |
治療前後の写真






※症例写真は当該患者さまの治療前後を撮影したものです。治療結果には個人差があり、同様の結果を保証するものではありません。
治療前の歯並びと主訴
治療前の口腔内写真では、上下の前歯に大きな重なりや位置のずれがあり、複数の歯が歯列の内側・外側へずれている状態が確認できます。このような状態は叢生と呼ばれ、歯が並ぶためのスペースが不足している場合などにみられます。
叢生が強いと、前歯の見た目が気になるだけでなく、歯と歯が重なる部分に歯ブラシが届きにくくなり、清掃が難しくなることがあります。本症例ではさらに上下顎前突も認められていました。上下顎前突は、上顎・下顎の前歯がともに前方へ位置している状態で、歯並びだけでなく口元の印象にも関係することがあります。ただし、前歯が前に見える原因は歯の傾きや顎の骨格などによって異なるため、写真だけで治療方法を判断することはできません。
上下顎前突と顎・歯列の左右差を伴う症例
本症例では、叢生や上下顎前突に加えて、下顎骨の骨格的な左側偏位と上顎歯列の狭窄が症例記録に記載されています。つまり、「前歯をきれいに並べる」だけではなく、上下の歯列の形や左右差、噛み合わせも確認しながら治療を進める必要がありました。
矯正治療では、患者さまが最初に気にしている見た目の部分と、精密検査によって確認される治療上の課題が異なることがあります。特に強い叢生や顎の左右差がある場合には、歯の位置だけではなく、骨格との関係や上下の歯の接触状態まで評価します。治療方法を選ぶ際も、単に「目立たない装置を使いたい」という希望だけで決めず、必要な歯の移動を行えるかどうかを含めて診断することが重要です。
上下とも裏側に装置をつけるフルリンガル矯正
本症例の大きな特徴は、上下顎ともリンガルアプライアンスを使用していることです。上下の歯の裏側にブラケットとワイヤーを装着する方法は、一般にフルリンガル矯正と呼ばれます。正面から矯正装置が見えにくいため、上下とも装置の見た目に配慮しながらワイヤー矯正を行いたい方に選択肢となります。
裏側矯正は歯の裏側からワイヤーで力をかけて歯を動かす固定式の矯正治療で、マウスピースのように患者さま自身で装着・取り外しを行う必要はありません。一方で、上下とも裏側に装置があるため、装着直後は舌への違和感、発音のしづらさ、食事のしづらさなどを感じる場合があります。また、噛み合わせによっては上下の裏側装置が干渉するケースもあるため、フルリンガルが適しているかどうかは検査・診断によって判断します。
4本の小臼歯を抜歯した治療
本症例では、上顎左右の第一小臼歯と下顎左右の第二小臼歯、合計4本を抜歯しています。叢生が強い場合には、歯を一列に並べるためのスペースが不足していることがあります。また、上下顎前突のように前歯の位置を調整する必要がある場合にも、治療計画の一つとして抜歯を検討することがあります。
ただし、叢生や出っ歯があれば必ず4本抜歯するわけではありません。必要なスペース、歯の大きさ、前歯の位置、噛み合わせ、顎の骨格などを確認したうえで、抜歯の有無や抜歯する歯を決定します。本症例でも上顎と下顎で異なる小臼歯を抜歯しており、症例ごとに治療計画が異なることがわかります。ご自身の歯並びで抜歯が必要かどうかは、精密検査後の診断で確認する必要があります。
TADとQHを併用した治療
本症例では、上下のリンガルアプライアンスに加えて、TADを2本、QH(クォードヘリックス)を使用しています。TADは顎の骨に設置し、歯を動かす際の固定源として利用する小さな装置です。ワイヤー矯正と組み合わせることで、歯を移動させる際の支点として使用します。
QHは歯列に使用する補助的な矯正装置の一つです。本症例では上顎歯列の狭窄も記録されており、リンガルアプライアンスだけでなく補助装置を組み合わせて治療しています。裏側矯正という名称から、歯の裏側のブラケットだけで治療するイメージを持つ方もいますが、実際には歯並びや噛み合わせに応じて複数の装置を使用する場合があります。なお、TADやQHが必要かどうかは症例ごとに異なり、すべてのフルリンガル矯正で使用するものではありません。
治療後の変化
治療後の口腔内写真では、治療前に大きく重なっていた上下の前歯が整い、歯列全体の状態が変化していることを確認できます。特に本症例は治療前の叢生が強いため、正面写真だけでなく、上顎・下顎の歯列を咬合面から撮影した写真を比較すると、治療前後の違いがわかりやすい症例です。
矯正治療の評価では、見た目の変化だけではなく、左右から見た噛み合わせや上下の歯の位置関係も確認します。また、装置を外した後の歯は、そのままにしておくと元の位置へ戻ろうとすることがあります。そのため、動的治療終了後は保定装置(リテーナー)を使用し、治療後の歯並びを安定させます。本症例と似た歯並びであっても、同じ結果や同じ治療期間を保証するものではありません。
治療期間・治療回数・費用
本症例の動的治療期間は2年0か月、治療回数は24回、治療費は154万円(税込)でした。これは本症例の治療時点における実績であり、現在の料金体系とは異なる場合があります。また、治療期間は叢生の程度や抜歯本数だけで決まるわけではありません。
歯の移動距離、歯の動き方、噛み合わせ、骨格、使用する装置、通院状況などによって変わります。本症例は2年間で動的治療を終えていますが、同程度に見える叢生でも患者さまによって期間は異なります。カウンセリングの段階で確定的な治療期間を判断するのではなく、精密検査と診断を経て治療計画や期間の目安を確認することが大切です。
フルリンガル矯正のメリットと注意点
フルリンガル矯正の大きな特徴は、上下とも矯正装置が正面から見えにくいことです。接客や営業など人前に出る機会が多い方、矯正中の外見への影響をできるだけ抑えたい方にとって選択肢となります。また、固定式のワイヤー矯正であるため、患者さま自身が毎日装置時間を管理する必要はありません。
一方で、装置が舌に近いことから、治療開始直後は発音しづらさや舌の痛み、口内炎などが生じることがあります。上下とも裏側に装置をつける場合は、歯磨きにも慣れが必要です。装置が見えにくいため、タフトブラシや歯間ブラシなども活用して装置周囲を丁寧に清掃することが重要です。見た目のメリットだけでなく、日常生活への影響、費用、セルフケアのしやすさも含めて検討する必要があります。
裏側矯正で考えられるリスク・副作用
裏側矯正では、歯を移動させる際に違和感や痛みが生じることがあります。装置が舌に触れるため、舌の痛みや口内炎、発音のしづらさ、食事のしづらさなどが起こる場合があります。また、装置の周囲は清掃が難しくなりやすく、歯磨きが不十分な場合には虫歯や歯周病のリスクが高まります。
このほか、歯根吸収、歯肉退縮、顎関節の症状、装置の脱離などが生じる可能性があります。治療後に保定装置を適切に使用しない場合には、後戻りや予想できない歯の移動が起こることがあります。本症例のようにTADを使用する場合には、スクリューの脱落や周囲組織の炎症などが起こる場合もあります。治療前にはこれらのリスクについて説明を受け、治療中は丁寧なセルフケアと定期的な通院を続けることが重要です。
この症例に関するよくある質問
強い叢生でも裏側矯正はできますか?
強い叢生でも裏側矯正が選択肢になる場合があります。本症例では上下ともリンガルアプライアンスを使用しました。ただし、叢生の程度、噛み合わせ、骨格、必要な歯の移動量によって適した治療方法は異なるため、検査・診断が必要です。
上下とも裏側に装置をつけられますか?
上下とも裏側に装置をつけるフルリンガル矯正は可能な場合がありますが、噛み合わせによっては装置が干渉することがあります。その場合は上顎のみを裏側にするハーフリンガルなど、別の方法を検討することがあります。
4本抜歯は必ず必要ですか?
必ず必要というわけではありません。本症例では4本の小臼歯を抜歯していますが、抜歯の必要性や部位は患者さまごとに異なります。歯列のスペース、前歯の位置、骨格、噛み合わせなどを確認して決定します。
