最終更新日:2025.7.1(公開日:2025.7.1)
監修者:日本矯正歯科学会認定医 院長 宮島 桜

夜中の歯ぎしりや日中の食いしばりでお悩みの方に朗報です。実は、歯ぎしりや食いしばりの根本的な原因の一つに歯並びの問題があることをご存知でしょうか。
本記事では、歯ぎしり・食いしばりと矯正治療の関係性について、矯正歯科の専門医が詳しく解説します。あなたの症状の原因を理解し、適切な治療法を見つけることで、快適な毎日を取り戻すためのヒントが見つかるでしょう。歯ぎしりや食いしばりによる歯の摩耗、顎の痛み、頭痛などの症状に悩まされている方は、ぜひ最後までお読みください。矯正治療という新たな選択肢があなたの人生を変えるかもしれません。
歯ぎしり・食いしばりとは?基本的なメカニズムを理解しよう
歯ぎしり(ブラキシズム)と食いしばり(クレンチング)は、医学的には「睡眠時ブラキシズム」「覚醒時ブラキシズム」と呼ばれる咬合異常習癖の一種です。
歯ぎしりは、主に睡眠中に上下の歯を擦り合わせる動作で、「ギリギリ」という音が特徴的です。一方、食いしばりは睡眠中や日中に無意識に歯を強く噛み締める行為で、音はほとんど出ません。
これらの習癖は、正常な咀嚼時の約6倍もの力が歯にかかると言われており、歯の摩耗、歯根の破折、詰め物の脱落などの深刻な問題を引き起こします。また、顎関節症、頭痛、肩こり、首の痛みなど、全身症状の原因にもなることが分かっています。
日本人の約8-16%が睡眠時ブラキシズムの症状を持つとされており、決して珍しい症状ではありません。しかし、多くの方が適切な治療を受けずに放置しているのが現状です。
症状のセルフチェックポイント
以下の症状に心当たりがある方は、歯ぎしりや食いしばりの可能性があります:
- ・朝起きた時に顎が疲れている、痛い
- ・歯の表面が平らになっている、欠けている
- ・舌や頬の内側に歯型の跡がついている
- ・頭痛や肩こりが頻繁にある
- ・家族から夜中の歯ぎしり音を指摘された
歯ぎしり・食いしばりの主な原因とは?
歯ぎしり・食いしばりの原因は多岐にわたり、複数の要因が組み合わさって発症することが多いとされています。
ストレスと心理的要因
最も一般的な原因として、心理的ストレスが挙げられます。仕事や人間関係のストレス、不安、うつ状態などが、睡眠中の歯ぎしりを誘発することが多くの研究で報告されています。
ストレスを感じると、交感神経が優位になり、筋肉の緊張が高まります。この状態が睡眠中も続くことで、咀嚼筋の異常な収縮が起こり、歯ぎしりや食いしばりにつながるのです。
咬合異常(歯並びの問題)
歯並びや噛み合わせの異常も、歯ぎしり・食いしばりの重要な原因の一つです。上下の歯が正しく噛み合わない状態では、顎の筋肉が安定した位置を見つけようとして、無意識に歯を動かし続けることがあります。
特に以下のような咬合異常がある場合、歯ぎしりのリスクが高まります:
- ・叢生(でこぼこの歯並び)
- ・開咬(奥歯で噛んでも前歯が閉じない)
- ・過蓋咬合(上の歯が下の歯を深く覆っている)
- ・交叉咬合(上下の歯の噛み合わせが左右で逆転している)
生活習慣と環境要因
アルコールの過剰摂取、カフェインの摂取、喫煙習慣なども歯ぎしりを悪化させる要因として知られています。また、不規則な睡眠パターンや睡眠不足も、ブラキシズムの発症リスクを高めることが報告されています。
歯並びと歯ぎしり・食いしばりの深い関係性
歯並びの問題と歯ぎしり・食いしばりには、密接な相関関係があることが近年の研究で明らかになっています。
噛み合わせの不調和がもたらす影響
正常な噛み合わせでは、上下の歯が均等に接触し、咀嚼筋への負担が分散されます。しかし、歯並びに問題がある場合、特定の歯に過度な力がかかったり、顎の位置が不安定になったりすることで、筋肉の緊張が生じます。
この筋肉の緊張が、睡眠中や無意識時の歯ぎしり・食いしばりを引き起こす直接的な原因となるのです。つまり、歯並びの矯正により噛み合わせを改善することで、これらの症状の根本的な解決が期待できるということです。
顎関節への影響
歯並びの異常は、顎関節(TMJ)にも大きな影響を与えます。不適切な噛み合わせにより顎関節に負担がかかると、関節円板の位置異常や関節の炎症が起こり、これが歯ぎしりや食いしばりを誘発することがあります。
矯正治療により適切な噛み合わせを作ることで、顎関節への負担が軽減され、結果として歯ぎしり・食いしばりの改善につながることが多く報告されています。
矯正治療で歯ぎしり・食いしばりは改善できるのか?
結論から申し上げると、適切な診断に基づいた矯正治療により、歯ぎしり・食いしばりの改善は十分に可能です。
矯正治療による改善メカニズム
矯正治療が歯ぎしり・食いしばりに効果的な理由は以下の通りです:
1.噛み合わせの正常化
歯並びを整えることで、上下の歯が均等に接触するようになり、特定の歯への過度な負担が軽減されます。これにより、咀嚼筋の緊張が和らぎ、無意識の歯ぎしりが減少します。
2.顎位の安定化
正しい歯並びにより、顎の位置が安定し、顎関節への負担が軽減されます。安定した顎位は、睡眠中の異常な筋活動を抑制する効果があります。
3.筋肉バランスの改善
矯正治療により咬合平面が整うことで、咀嚼筋群のバランスが改善され、過度な筋収縮が起こりにくくなります。
治療効果の実例
矯正歯科クリニックでの治療実績では、咬合異常が原因の歯ぎしり・食いしばりの約70-80%で、矯正治療により症状の明確な改善が見られています。
特に、叢生や開咬などの明らかな歯並びの異常がある患者さんでは、矯正治療による改善効果が高い傾向にあります。治療開始から6ヶ月程度で症状の軽減を実感される方が多く、治療完了後はより安定した改善効果が得られています。
矯正治療の種類と選択
歯ぎしり・食いしばりの改善を目的とした矯正治療では、以下の方法が効果的です:
ワイヤー矯正(表側・裏側)
最も確実で精密な歯の移動が可能で、重度の咬合異常にも対応できます。治療期間は1.5-3年程度です。
マウスピース型矯正装置
軽度から中等度の歯並びの問題に適用され、装置による違和感が少ないのが特徴です。ただし、重度の咬合異常には適用が難しい場合があります。
矯正治療以外の治療選択肢とその効果
矯正治療以外にも、歯ぎしり・食いしばりに対する治療法があります。これらの治療法の特徴と効果を理解し、自分に最適な治療を選択することが重要です。
ナイトガード(スプリント療法)
最も一般的な治療法で、睡眠時に装着するマウスピース型の装置です。歯ぎしりによる歯への直接的なダメージを防ぐ効果がありますが、歯ぎしり自体を根本的に解決するものではありません。
メリット
- ・治療開始が早い(型取りから1-2週間で完成)
- ・比較的安価(保険適用で3,000-5,000円程度)
- ・歯への直接的な保護効果が高い
デメリット
- ・根本的な原因解決にはならない
- ・継続的な使用が必要
- ・装着感による睡眠の質への影響
薬物療法
筋弛緩剤や抗不安薬などが使用される場合がありますが、副作用のリスクや根本的解決にならないことから、長期使用は推奨されていません。
ボツリヌス毒素注射
咀嚼筋への注射により筋肉の過度な収縮を抑制する治療法です。効果は3-6ヶ月程度持続しますが、定期的な治療が必要で、費用も高額になります。
矯正治療を受ける際の注意点とリスク
矯正治療には多くのメリットがありますが、治療を検討する際に知っておくべき注意点やリスクも存在します。
治療期間中の注意点
治療初期の症状悪化
矯正治療開始初期は、歯の移動に伴う痛みや違和感により、一時的に歯ぎしりが強くなることがあります。これは正常な反応で、通常1-2ヶ月で軽減します。
口腔ケアの重要性
矯正装置装着中は、食べ物が詰まりやすく、虫歯や歯周病のリスクが高まります。丁寧なブラッシングと定期的なメンテナンスが必要です。
治療のリスクと対策
歯根吸収
まれに歯の根が短くなる現象が起こることがありますが、適切な力での歯の移動により、このリスクを最小限に抑えることができます。
後戻り
治療後に歯が元の位置に戻ろうとする現象です。保定装置の適切な使用により防ぐことができます。
成功のための患者さんの協力
矯正治療の成功には、患者さんの積極的な協力が不可欠です。定期的な通院、適切な口腔ケア、生活習慣の改善などが、良好な治療結果につながります。
治療費用と期間の目安について
矯正治療を検討する際に、多くの方が気になるのが費用と期間です。ここでは、歯ぎしり・食いしばりの改善を目的とした矯正治療の実際のコストと期間について詳しく説明します。
治療費用の内訳
ワイヤー矯正(表側)
60-100万円 最も一般的な矯正治療で、幅広い症例に対応可能です。症例の複雑さにより費用が変動します。
リンガル矯正(裏側)
100-150万円 見た目を気にされる方に人気ですが、技術的難易度が高いため、表側矯正より高額になります。
マウスピース型矯正
70-120万円 軽度から中等度の症例に適用され、装置の快適性が高いのが特徴です。
その他の費用
- ・初診相談:0-5,000円
- ・精密検査:3-5万円
- ・調整料:3,000-8,000円/月
- ・保定装置:3-5万円
治療期間の目安
軽度の咬合異常
1-1.5年 軽微な歯並びの乱れが原因の場合、比較的短期間での改善が期待できます。
中等度の咬合異常
1.5-2.5年 一般的な矯正治療の期間で、多くの症例がこの範囲に含まれます。
重度の咬合異常
2.5-3年以上 外科的矯正治療が必要な場合や、大幅な歯の移動が必要な症例では、より長期間の治療が必要です。
医療費控除の活用
矯正治療費は医療費控除の対象となる場合があります。歯ぎしり・食いしばりのような機能的問題の改善を目的とした治療は、控除の対象となる可能性が高いため、税務署や税理士に相談することをお勧めします。
専門医による診断の重要性
歯ぎしり・食いしばりの治療において、最も重要なのは正確な診断です。症状の原因を正しく特定することで、最適な治療法を選択できます。
総合的な診断の必要性
歯ぎしり・食いしばりは多因子性の疾患であり、歯並び、ストレス、生活習慣、全身状態など、様々な要因が複雑に絡み合っています。そのため、矯正歯科医、歯科医師、場合によっては医師との連携による総合的な診断が重要です。
精密検査の内容
口腔内検査
歯の摩耗状態、歯並び、噛み合わせの詳細な検査を行います。
レントゲン検査
頭部X線規格写真(セファログラム)により、骨格的な問題を評価します。
筋電図検査
咀嚼筋の活動を測定し、筋肉の緊張状態を客観的に評価します。
睡眠ポリグラフィー
必要に応じて、睡眠中の歯ぎしりの頻度や強度を詳細に分析します。
セカンドオピニオンの重要性
治療法の選択に迷った場合は、複数の専門医の意見を聞くことも大切です。特に、高額で長期間の治療となる矯正治療では、十分に納得した上で治療を開始することが重要です。
まとめ
歯ぎしり・食いしばりでお悩みの方にとって、矯正治療は根本的な解決策となる可能性があります。
本記事でお伝えした重要なポイントをまとめると:
歯並びの問題が歯ぎしり・食いしばりの原因となっている場合、矯正治療により症状の大幅な改善が期待できます。ナイトガードなどの対症療法とは異なり、噛み合わせを根本から改善することで、長期的な解決につながります。
ただし、矯正治療は時間と費用がかかる治療です。まずは専門医による正確な診断を受け、あなたの症状の原因を明確にすることが重要です。原因に応じて、矯正治療が最適な選択肢となるかどうかを判断できます。
次のステップとして、以下のことをお勧めします
- 1.矯正歯科専門医での相談予約を取る
- 2.現在の症状を詳しく記録しておく
- 3.治療に関する疑問や不安をリストアップしておく
- 4.複数のクリニックでの相談を検討する
歯ぎしり・食いしばりは放置すると、歯だけでなく全身の健康にも影響を与える可能性があります。適切な治療により、快適で健康的な毎日を取り戻しましょう。専門医との相談が、あなたの症状改善への第一歩となるはずです。