最終更新日2024.8.23(公開日:2023.07.01)
監修者:日本矯正歯科学会認定医 院長 宮島 桜
歯並びが整っていなかったり、噛み合わせが悪かったりしたとき、その影響はご本人の外見だけにとどまらず、全身的な健康状態にも及ぶことも明らかになっています。
こうしたこともあり、近年、”歯並びをきれいにしたい””噛み合わせを良くしたい”という方が増え、矯正歯科への関心が高まっています。ところが、どのようなことをしているのか、あまり詳しくない方もいらっしゃいます。
そこで今回は、詳しく解説させていただきます。
矯正歯科って何?
医療の制度上、歯科で看板に書くことができる診療科は、「歯科」「小児歯科」「矯正歯科」「歯科口腔外科」の4つだけと定められています。これらのうち「矯正歯科」は、歯並びがあまり良くないときに、歯並びをきれいにして、正しく噛み合わせられるように歯の位置を整えることを目的とした歯科の診療科です。
”なんとなく知っている””イメージが浮かんでくる”という方も多いと思います。
ところが、実際には何をしているのか、どのようにして歯を動かしているのか、歯科医師に相談したり、治療を受けないとよくわからないところも多くあることでしょう。
このコラムを最後までお読みいただければ、よくお分かりいただけると思います。
使われるいろいろな装置
歯が動くことは紀元前の時代から分かっていましたが、放っておいてもきれいな位置に向かって歯自らが自然に動くことはありません。そこで、歯が理想的な位置に動くように、「矯正装置」という専用の器具を使って歯を動かすようにしています。
現在、装置の技術もどんどん進化しており、使用される装置も多数登場しています。
その中で主に使われているのが、マルチブラケット、マウスピースの2種類の装置です。
では、マルチブラケットとマウスピースについて解説させていただきます。
①マルチブラケット
マルチブラケットは、治療として最もイメージされやすい装置です。
歯の表面に、ブラケットという小さな器具を貼り付け、歯並び全体をつなぐワイヤーの働きで歯を移動させる装置です。
次にご紹介するマウスピース装置と異なり、ご自身で取り外すことはできず、基本的に治療が終わるまでつけたままになります。そして、定期的に歯科医院を受診して、ワイヤーを新しいものに交換することで、歯を理想的な位置に向けて動かしていきます。
矯正治療=マルチブラケットとイメージされるほどの長い歴史のある装置で、ほぼあらゆる歯列不正に対応できる症例の多さに利点があります。
当初は、銀色の金属製のブラケットと、銀色のワイヤーの組み合わせでしたので、目立ちやすいという見た目の問題があり、これが大きなデメリットでした。
ただし、目立ちやすいというデメリットについては、近年、歯の色に合わせたブラケットやワイヤーが開発されています。
コンポジットレジンというプラスチック、セラミックで作られたブラケットを選び、白色でコーティングされたワイヤーを選べば、装置がそこまで目立って困るというわけではなくなりつつあります。
あと、装置の間に食べ物が詰まりやすい、歯磨きがしにくいというデメリットも持っています。
②マウスピース
マウスピースは、最も新しい装置で、ブラケットもワイヤーも使いません。その代わりにマウスピースを使います。マウスピースですから、マルチブラケットと異なりご自身の手で外すことができます。
このマウスピースの特徴は、マウスピースの先駆者とも言えるインビザラインが開発したコンピューターによるシミュレーションとマウスピースの自動製作にあります。
まず、治療開始前の歯の位置関係を歯の模型や口腔内スキャナーで記録します。
そして、そのデータを元に、歯をどのように動かし、最終的な歯の位置がどうなるのか、またその位置に達するまでにどのような動き方をするのかをシミュレーションで明らかにします。
このシミュレーションに基づき、治療途中のさまざまな段階での歯の位置に合わせたマウスピースを工作機械を使って自動的に作ります。出来上がったマウスピースを順を追って定期的に交換して使うことで、理想的な位置に向けて少しずつ歯を動かします。
このマウスピースは、透明度が高く、しかもとても薄いので、目立ちません。
フィット感も抜群です。
歯科医師もパッと見ただけではわからないほどの目立ちにくさです。目立たないというのが、マウスピースのまず挙げられるメリットです。また、マウスピースを前もっていくつかもらっておけば、通院回数も少なくなります。
マウスピースですから、食事や歯磨きのときにご自身で外せますから、日常生活にも影響しにくいです。
マウスピースには、このような多くの利点があり、近年注目が集まっています。
一方でデメリットもあります。
実は、適応できる症例の幅広さで比べてみると、マルチブラケットに軍配が上がります。
例えば、マルチブラケットなら対応できる顎変形症という顎の骨格の形や大きさの異常により歯並びが悪くなる病気の治療にマウスピースは対応していません。
これは一例ですが、マウスピースで治療できる症例は、マルチブラケットの症例数ほどではなく、治療できない歯列不正もあります。
そして、マウスピースの交換など自己管理をしっかりしておかなければ治療計画通りに歯が移動しません。
マウスピース自体を無くしたり壊したりする可能性があるというのもデメリットに含めてもいいかもしれません。
抜歯と非抜歯
歯並びを整えるために歯を抜いたという話を聞いたことありませんか?
その通り、しばしば抜歯が必要となります。
①抜歯が必要な症例
治療のための抜歯を便宜抜歯と言います。
便宜抜歯では、前から数えて4番目に当たる第一小臼歯がよく選ばれますが、その後ろの第二小臼歯の状態によっては、第一小臼歯ではなくそちらが選ばれることもあります。
もちろん、抜歯することなく治療を終えることができればいうことはありません。
ところが、中には歯の大きさ(歯の横幅の合計値)と歯を並べる顎の骨格の大きさのバランスが悪く、相対的に顎の骨格が小さいという方がいらっしゃいます。
このような方は、顎の大きさを大きくすることはできないので、歯の横幅の合計値を減らすことで、歯を並べるスペースを確保するしかありません。
もし、歯の大きさと顎の骨格のバランスが整っていないままに治療をすれば、歯がきれいに並ばず、外側に広がった歯並びになってしまうことがあります。
では、どうやって歯の横幅の合計値を減らすのか、その答えが抜歯です。
歯の数が減れば、歯の横幅の合計値は自然と少なくなります。
そう、歯の大きさと顎の骨格の大きさのバランスをとるため、抜歯が行われているのです。
②抜歯以外の方法(非抜歯)が選べる症例
抜歯すれば、歯が1本分なくなるわけですから、歯の横幅の合計値がかなり少なくなります。
しかし、歯の大きさと顎の骨格の大きさのバランスが取れていない症例でも、そこまでひどくない、わずかにバランスが取れていない程度ということもあります。
そのようなとき、抜歯して得られるスペースは治療が必要とする以上に大きいです。
歯を移動させる距離が長くなる分、治療期間は長くなりますし、何より歯を失ってしまうというデメリットも大きいです。
したがって、歯の大きさと顎の骨格の大きさのバランスが少し悪いだけという場合は、抜歯以外の方法で対応します。
抜歯以外の方法
①IPR
IPRは、Inter Proximal Reductionの頭文字を合わせた処置で、歯の隣接面とよばれる横面をほんのわずか削るという方法です。削るといっても、歯の表面を覆うエナメル質の厚みの範囲だけなので、1.0ミリにも満たない、ごくわずかな量です。
仮に1本の歯でも両サイドを0.5ミリ削ると0.5ミリ+0.5ミリで1.0ミリのスペースが得られます。
この処置を10本くらいの歯に行えば1センチですから、少しずつでもたくさんの歯を削れば結構なスペースが得られることがお分かりいただけると思います。まさに塵も積もれば山となるといった感じですね。
②奥歯の移動
奥歯を後ろにずらすという方法もあります。奥歯は、大きい上、歯の根の数も多くしっかりしているので、簡単に動かすことはできません。通常の治療では、歯を動かすための支えにしているほどのしっかりさです。
その奥歯を後ろに動かすために、使うのが、アンカースクリューという器具です。小さなネジのような形をしており、チタンで作られています。
これを顎の骨に埋め込み、ここを支えにしてゴムをかけてゴムの働きで奥歯を後ろに動かします。
この方法は一般的にインプラントという名前で呼ばれているのですが、こうすることでなかなか難しい奥歯の移動が可能になります。
歯科の選び方
下記のような理由で、医院選びに迷っている方も多いのではないかと思います。
・自由診療のため治療費用が高い
・各クリニックで治療方針が異なる
・担当する歯科医師の経験や技術が治療後の仕上がりを左右する
・基本的に長期間になることが多いため、仕事や学業の都合で転院しなければならなくなったときが不安
歯科医がしっかりと治療について説明してくれるか、治療の選択肢をいくつ提示してもらえるのか、医院の雰囲気が自分に合っているかなどさまざまな視点からチェックしてください。そして、最終的に自分で納得できる歯科を選ぶことをおすすめいたします。